引用の詩学。/田中宏輔
 
いる!
(フロベール『聖アントワヌの誘惑』第二章、渡辺一夫訳)


見るかい?
(マイク・レズニック『キリンヤガ』3、内田昌之訳)


むしろそれは祈りに似たものだった。
(ジョイス・ケアリー『脱走』小野寺 健訳)


彼は「自分はもう二度と自分自身になることはあるまい」と語るのである。
(キェルケゴール『死に至る病』第一編・三・B・b・α・2、斎藤信治訳)


汝(なれ)はそも、涙を持てる、憂わしき甕なるか?
(ジイド『贋金つかい』第三部・七、川口 篤訳)


世のなかには元来、ただ一冊の「書物」だけしか存在せず、その掟が世界を支配しているのではないか。
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