引用の詩学。/田中宏輔
 





 メリルのこの言葉から、愛するものは生き生きとしていると思った。愛する者は生き生きとしているでもいい。ディックの小説に、「「ねえ」と映話をすませたマルチーヌがいった。「なに考えてるの?」/「きみが愛するものは、生き生きしてるってこと」/「愛ってそういうものなんでしょ?」とマルチーヌはいった。」(フィリップ・K・ディック『凍った旅』浅倉久志訳)といった言葉のやりとりを描写した箇所がある。愛の絶頂というのが、肉体的なことに限りはしないことなのだけれど、かつて、肉体的な絶頂がもたらせる充足感が、自分の生命のありったけの喜びを集めて放射したように感じることがあった。もっとも生き生きとした
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