引用の詩学。/田中宏輔
で生きていくことに耐えられずに、いまある幸せを、いまつかまえられるかもしれない幸せを、幸せになるかもしれない可能性を、自らの手で壊してしまう、そんなことを繰り返してきたのだった、このぼくは。京大のエイジくんとの一年半の付き合い方が、この典型だった。おそらく、彼も、ぼくと同じような性質だったのであろう。お互いに、相手を好きだという気持ちをストレートに出せなくて、会うたびに相手を傷つけるような言葉を投げかけ合っていたのであった。相手を侮辱し、挑発し、怒りや憎しみを装った悲しみを投げつけ合っていたのであろう。二十年近くたって冷静に自分の言動を見つめていると、しばしば哀れみを感じてしまう。愛情をストレート
[次のページ]
戻る 編 削 Point(7)