小麦の薫る男(サンドイッチマン)/本田憲嵩
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(朝は、パン♪パン、パ♪パン♪)(昼も、パン♪パン、パ、パン♪)(夜は、うどん♪うどん♪うどん!♪)巨大な一斤の食パンの被り物を頭に被った白いコックコートを着た小太りの男が、「やきたてパン屋」と書かれた幟旗を片手に持ちながら、そのヘンテコな歌のリズムに合わせて、僕の座っているベンチへと少うしづつ少うしづつ近づいてくる。(徒歩で、パン♪パン、パ、パン♪)僕はできるだけ目を合わせないように彼のいる方向の反対側に首を向ける。(靴もパン♪パン♪パ♪パン♪)。そのメガネをかけた男は、その幟旗の竿をベンチの手すりの差し込み口に入れやいなや、僕のすぐ隣へと半ば強引にドンと座り込んできた。(ここで
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