泡(あぶく)/ホロウ・シカエルボク
 
緩やかに動き続ける波はそう囁いているように見える、いつかね、と俺は答えて、あとは知らない振りをする、鴉が一羽、4メートルほど離れた、積み上げられたテトラポッドの頂点に止まってこちらを眺めている、そいつは確かに俺の心情を正しく理解しているように思えた、だから俺はそいつに話しかけないようにつとめた、意気投合でもしてしまったらそのまま二人で波の中に沈んでいきそうな気がしたからだ、相手の目を見るだけでそんな絵が見えることがある、それは感情の歴史に裏打ちされた直感的理解だ、世に言われる直感と言われるもののほとんどは、一番手ごろな考えに飛びついただけの稚拙なものに過ぎない、直感的理解とは悟りのようなものだ、波
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