空白の歌たち/由比良 倖
 
と小説を書くしかないんだ。
睡眠薬で身体と世界を曖昧にして。
私みたいにね。


静かで冷たい、ガラスの匂いに泣きたくなる。
私は今、ここにいる。お腹の奥の孤独感は、
私が生きている証。
新しいアルコールで拭かれたような秋、
心持ち乾いた空気、
ヘッドホンから流れる音が、
全身を満たしていく。世界の色が変わる。
……いつかの前世、全ては雨漏りだった。


そう、私はギターの地図を持っている。


人恋しくて、冷えた街にシロップを垂らしながら歩く。
ガラス張りの電車、その沿線住民となる。
全ての人がガラス越しに過ぎ去っていく。
有刺鉄線に張り付いて死ぬ
[次のページ]
戻る   Point(3)