空白の歌たち/由比良 倖
いう気持ちを、優しく、温かく抱きながら。泣きたくなって、歌いたくなって、また震えの中で目が覚めるまで。
1
*
風向き次第で、理由なんてどんどん変わる。
生きてる理由も、死にゆく理由も。
搾りたてのオリーブオイルみたいに、
空気はいつも揺れていて、
私が私である理由は、ただ、
お気に入りの黒い靴のおかげだったりする。
*
アメリカ大陸をつるつるに磨き上げるように、
ソフトクリームを両手に持つように、
十二本の鉛筆をふたりで分け合うように。
生活は「今」というアトリエ。
*
不安や動悸こそが恩恵なのだと、
命が尽き、全てが冬になるとき、
あなたは何か
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)