光りになれない。/中田満帆
インカ帝国の歴史を傍証するおれはたぶん、
たぶん今更きみに出遭うこともない、もはや出遭うことはない
過ぎ去った他者をもはやおもうことなどない
過ぎ去った未来をもはやなじることもない
なぜならおれが生きた証はこの本でしかないからだ
なぜならきみがおれのなかにいたのは束の間の宇宙だってわかったからだ
ブラウン管から8Kウルトラへの進歩と逸脱、
体感幻覚に襲われたひとびとがさ迷う町のなかで、
もはやテレビなんか要らない、なんの助けにもならないと気づく
おれもやっぱり光りになんかなれやしないんだよ
心のなかにあったきみという現象を掻き消して沙漠のなかを歩く
拠り
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