鏡像 【改訂】/リリー
病院から還ると
「お疲れさん! 早く、昼食済ませて入浴の誘導頼むで」
五十代でベテランの通称「チーママ」が、待ち構えていたかの様に通る声を
投げてきた。昼食後の寮母室は、曜日毎に各棟の入居者達が入浴する午後の
カリキュラムで、すでに慌ただしい。
風呂場で洗髪や身体を洗う介助の当番だった私は、大浴場へ向かう前に
こっそりと、膝が悪いため一階に住まう上野さんを訪ねる。
「上野さん、こんにちは。ちょっとお邪魔してもよろしいですか?」
相部屋の人は、先ほど入浴日なので職員に誘導されて脱衣所へ行った。在室
を確かめてノックした引き戸を開ける。畳へ上がらせてもらうと
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)