鏡像 【改訂】/リリー
ルを手渡した。
「難しいひとやわぁ……」
「けどな、あんなん言われたら腹立つわ!」
寮母室で、チーママと二階を担当する五十代の先輩が、珍しく愚痴る。
馬場さんは、独り身で面会に訪れる人の姿も無い。集会室でのレクリエー
ションへ参加した事も無く、ベット部屋に籠りっきり。配膳する食事すら満足
に摂ろうとせず、嘱託医が点滴の往診をしている。このままでは、痩せてます
ます動けなくなってしまう。
「お前らみたいな奴に、世話される自分が情けない」
俺の世話をするんなら、次長か主任、副主任を呼べ! というのが、認知症で
はない馬場さんの口癖だった。
当時の寮母
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