鏡像(13)「脱走」/リリー
「Wさん、新しい靴良く似合いますね!良かったですね。」
廊下の手摺りを伝い一日のほとんど徘徊なさっているWさん
たいてい誰かの目に、その姿は見留められていた
彼女に言葉はなくても
いつも にこやかに頷き返事は出来る
担当寮母が預かり金で高齢者シューズ、リハビリスニーカーを
購入した 新しい靴は彼女に歩いてもらうための物だった
そして間も無く彼女は事件を起こした
あれは寮父が宿直勤務だった二十二時過ぎ
見回りで居室を覗いた彼は、館内中走り回って彼女を探した
次長と主任へ緊急連絡し
近所に住まう主任とチーママが車を出して捜索する
たまたま施
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