鏡像(13)「脱走」/リリー
 
ま施設前の車道を下って国道へ出た歩道で
 彼女の姿が発見された
 この騒動あって以後、正門は施錠されるようになったのだ

 ところが日中に裏門で同じ事が起こってしまう
 彼女は外を歩きたかったのだろう
 外出するには人手が足りず
 施設のレクリエーションでお散歩は少なかった

 命に関わる為、裏門にも施錠されるようになった
 やがて感染症で寝込まれた後に
 床上げしても車椅子で過ごしてもらうような
 組織としての、対応がとられるようになった
 
 まだ歩けるはずの認知症の人を、車椅子にしてしまうのか!
 私には、忘れられない記憶になった
 徘徊されていた時に見せてくれた彼女の明るい表情も
 乏しくなってしまった

 もう一度言おう、担当寮母が彼女に購入した新しい靴は
 歩いてもらう為の物だったのだ
 
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