鏡像(10)「I さんの記憶」/リリー
 
 「はい、どうしたんですか?Iさん。」
 私を手招きするIさんの車椅子へ
 膝を折り目線を彼女より低くして寄り添う

 舌が上手く回らないIさんは
 口籠もりながら優しい目をして
 お風呂が気持ち良かったと話すのだ

 夕食待ちの大食堂はアコーディオンカーテンが閉まったまま
 待合所のフロアには、もう大勢の方達がおられる
 この日 シフトの遅出勤務だった私は
 食事介助と夜のオムツ交換に携わる

 Iさんは私のことを
 長浜にいらっしゃる妹さんだと思っている
 九十歳近いIさんにとって、若い私が妹であるという事は
 彼女自身いつの時代を今、生きておられるのか?

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