鏡像(9)「Oさんの記憶」/リリー
冷たい風で日の差す路面のアスファルトに
一台の車の走行音も乾いている
道の向こう側に閉まっている施設の大きな鉄の門へ
毛繕いしながらチラッと目をやる
サバトラ猫の鈴ちゃん
昨日は仕事帰りに私を見つけて
猫用のチューブ菓子をくれた、あの寮母さん
彼女は今日も出勤してるかしら?
×××
「このところ…Oさん節、もう聞くことなくなりましたねぇ。」
「仕方ないわよ。薬で…今朝もトロンとした目ぇしてなぁ。」
「私らにだけなら問題無くても、他の入居者の方達から苦情が
来るんやから。」
昼食の休憩時間に洩らす
寮母達の会話には
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