三文芝居の夜/ホロウ・シカエルボク
 
ちらかに決める勇気なんか俺にはないよ、誰もがこうあるべきなんだとでも言いたげに信号が点滅している、あいつが本当にやりたいことはきっと、信号無視をしたやつの頭に向かって倒れることだろう、ま、信号の気持ちを茶化してやれるくらい楽しい人生を生きているわけではないけどね…ずぶ濡れの酔っ払いが潰れた喫茶店の入口ドアにもたれてずっと同じ歌の一節だけを繰り返している、彼の服は酷く汚れている、ホームレスかもしれない、かすれた喉から絞り出すその歌は三十年は前のものだった、もはや彼自身、そんなものにどんな信頼もおいていないみたいに見えた、にもかかわらずその歌をずっと口ずさんでいるのは、きっと、他にすることをなにも思い
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