一頭の悪魔/ひだかたけし
灰色の四角い作業帽を被り
背が高くマッチ棒のように痩身だ
私はうずくまり目をきつく瞑っているのに
彼の姿やその思念がつぶさに分かってしまう
彼の注意は
最初からジブンに向けられている
彼は私の存在に気付かないふりをして
刻一刻と私に向かって近付いて来る
逃げなければ逃げなければ!
私は恐怖に大声をあげそうになるのを必死に堪えながら
立ち上がろうとする
が
そこから動くことは決してできない
ふと一斉に
響き渡っていた金属音が止む
私は思わず顔を上げる
〈彼〉が工作機械の上から私を見下ろしている
〈彼〉のつばの付いた灰色の工員帽が見える
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