一頭の悪魔/ひだかたけし
 

灰色の四角い作業帽を被り
背が高くマッチ棒のように痩身だ

私はうずくまり目をきつく瞑っているのに
彼の姿やその思念がつぶさに分かってしまう

彼の注意は
最初からジブンに向けられている
彼は私の存在に気付かないふりをして
刻一刻と私に向かって近付いて来る

逃げなければ逃げなければ!
私は恐怖に大声をあげそうになるのを必死に堪えながら
立ち上がろうとする

そこから動くことは決してできない

ふと一斉に
響き渡っていた金属音が止む

私は思わず顔を上げる

〈彼〉が工作機械の上から私を見下ろしている

〈彼〉のつばの付いた灰色の工員帽が見える
[次のページ]
戻る   Point(4)