一頭の悪魔/ひだかたけし
 
える

工員帽の影になった 〈彼〉の顔ハ
夜の砂漠のように茫漠たる闇で
その奥からギチギチギチギチと
執拗に歯軋りを繰り返すような
異様な擦過音が響き続ける

  *

「わっ!」と叫び私は目覚め
ベッドから上半身を起こし
荒い呼吸を繰り返しながら
思わず後ろ手を付く



眼前の
灰色の漆喰壁
襖張りの白い引き戸

豆電球の仄か黄色い明るみの中
浮き上がるようにして 在る

日常当たり前にあったものが
今や剥き出し露骨な匿名性として
冷たい無機質な虚無の塊として
そこに在る

私が呆然として
その光景を
凝視していると
次第に
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