火だるまパンツ事件。/田中宏輔
 

 あれは五年前、ぼくがまだ大学院の二年生のときのことでした。実験室で、クロレート電解のサンプリングをしていたときのことでした。共同実験者と二人で、三十時間の追跡実験をしておりました。途中一度でもサンプリングに失敗すれば、また最初から実験し直さなければならないはめになるのでした。目の前におります共同実験者の目の下の隈を見ますれば、けっして失敗などするわけにはまいりません。ところが、最後のサンプリングで、ピペットを使って電解溶液を採取しはじめたときに、急に便意を催したのでした。ぼくは採取した溶液を希釈して、すぐにUVスペクトルにかけなければなりません。相棒は相棒で、採取した溶液を過マンガン酸カリ
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