ムードで抱きすくめて/菊西 夕座
うたうたに見おくられながら、おとこはあたらしい歌をひきつれて旅をした。
うたうたは酒に似ていた。せかいを光の波紋でにじませて、あまく匂ういきをはいた。
波うちぎわでは、松のぎょうれつが盤根をもちあげてちんもくの巡礼にふくしていた。
いのりは砂はまから波にあらわれて、とおざかる夕ひにとけこみながら朱にきらめいた。
波のまにまに酌みかわすうたうたの巡礼は、松のきはだを海にうかべ襞ひだと脈うたす。
よせてはかえす旅のちどりあしに視界はもつれ、ちにふくしていた道さえあま雲にかわる。
せつせつとおちてくる恋うたにしとどぬれて、みあげれば松のえだが月にはりをのばす。
千本のはりをそろえた扇で
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