ムードで抱きすくめて/菊西 夕座
 
扇で月はなかばかおをかくし、恋情のきはずかしさを歌によむ。

はりは篠つくあめとなってゆきどけの湖にくだけ、とりかこむ岩いわに残響をしみいらす。
こけのあごひげをたくわえた岩いわは湖にかしずき、扇のなきがらを胸にたたみとむらう。
ひときわ濃いあごひげが荘重に口をひらくと、やみに月のさかずきは浮かびほされてゆく。

しののめの光が扇のかなめをゆるくして、よいつぶれた岩いわのあつい胸をはだけさせる。
さかずきから千のはりがいっせいにこぼれ、松がのばしたえだにさんさんとふりかさなる。
燦ぜんとはずむうたうたに抱きすくめられ、おんなはあたらしい歌にめざめては旅をする。

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