肌で生きるエウロペ/菊西 夕座
からいやましに遠ざかる
牡牛にかつがれた己をみいだし 槍の穂さきじみた波頭にもまれ
全身が凍りついたエウロペは まえのめる角の帆に血脈をゆわえた
彼女の声にならない悲鳴だけが 孤島からのびる枯枝(かれえ)のように
ながく尾をひいて陸地にむかい 掻ききずのかたちに弦をはると
弦をつまびく潮風の音に いつしか海は凪いで悪夢もしずまった
かつてゆめみた穂波にかわり 枯枝のしたにひろがるアスファルト
暗くぬりつぶされた夢の舗装を せわしない足なみが歩(ほ)をきそい
その振動が頬につたわると エウロペはなお人間としてたたかった
3、
身じろぎもできないからだを ささえ
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