12月のカーテンコール/平井容子
1.憎しみ
北風だ
なつかしい火事の気配だ
黒いタートルネックから青白い首筋がのぞいて
発情した外套の群れに咬まれた
くだらなくもただしい鳥獣戯画
ただし朝にはいつものコーヒーを
「出社時刻となりました。ただちにトーストを犠牲にして立ち上がる万感の戦士の出で立ちでそこに直れ。」
そのとき、そのあさ、いつも、なんどきも
(ぼくら)マスタードを尾に塗られた毛のない犬のように
走っていくしかないのだった
2.産湯の記憶
キャンドルを灯し
くぐったダブル・ドアズ
肌は朽ち
歯は抜け
やがておわりがきて
もう泳げないというときも
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