音楽と精霊たち?/朧月夜
 
ているのだろうか?)

 と、葉子は思った。

(前奏曲って、何に対する前奏曲なのだろう……)

 答えはもちろん、「フーガ」に対する前奏曲なのだが、それとは違った意味が込められているようにも感じられた。まるで、バッハは「自分の人生はこれからだ」と考えて、この曲を作ったようにも思われる。フーガの部分も、「トッカータとフーガ」に比べるとずっと穏やかだ。

 壮年にして人生はこれからだと思える、だからバッハはすごいのではないだろうか。「前奏曲とフーガ」はBマイナー、つまりロ短調の曲だ。モーツァルトのように若くして亡くなった人間には作り出せないものが、そこにはある。葉子は、生まれて初めて
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