音楽と精霊たち?/朧月夜
 



6.小さな者たちの声


 音楽は一度始められたら、当然続けられなくてはいけない。途中で終わってしまう音楽というものはない。それは、作曲で芽が出なかった葉子には痛いほどよく分かっていることだった。しかし、この「前奏曲とフーガ」は初めから「終わり」として始まっているように思える。

「前奏曲とフーガ」は、バッハの長い創作人生の中では中期〜後期に当たる時期にかけて作られた曲だ。つまり、壮年にさしかかった彼が作り出した曲だと言える。バッハがこの曲を作曲した時の年齢は、もちろん今の葉子の年齢よりも上だ。

(この曲の中には、まだわたしが経験したことのない思いが込められてい
[次のページ]
戻る   Point(1)