音楽と精霊たち?/朧月夜
 
両親が自分に残した家だけは、どうしても自分で守らなくてはいけないような気がしていた。

「土地と家は姉さんに遺(のこ)すって」

 そう弟から言われた時、葉子は正直言って驚いた。母の葬儀にも、父の葬儀にも、葉子はほんの顔出し程度に参列しただけだった。二人の死は弟からの報せで知った。死の床を見舞ったこともなければ、死の瞬間を看取ったわけでもない。それほど葉子と実家の両親とは疎遠だった。

「父さんたちは姉さんの仕事に反対していたから」

 と、弟は言う。大学の講師という仕事はもちろん恥ずべき仕事ではない。ただ、父も母も芸術は人を狂わせると考えていた。だから、弟は工業分野の仕事に
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