音楽と精霊たち?/朧月夜
 
感は何だったのだろう、と思うほど、彼女の仕事は平凡なことの繰り返しだった。学生たちを前にして講義をする、演奏の指導を行う、彼らの就職先や演奏技術についての相談に乗る。言ってみれば、葉子のしていたのは「退屈な仕事」だった。その退屈さにも葉子は満足していたのだが……

 S市に帰ってきた当初、葉子を襲ったのは強烈な違和感だった。もちろん、東京と地方都市では何もかもが違っている。話す言葉も違う。「自分もこの街で生まれたはずなのに」――東京に長くいすぎたことが、彼女の感覚を変えてしまったのかもしれなかった。

 そして、土地には土地の霊というものがある。そこに住んでいる者たちの生活、生き方、話し方
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