音楽と精霊たち?/朧月夜
=ほか}だと、弟は考えていた。しかし、今の彼には家庭があり、実家に引っ越すという選択肢はない。ならば、姉の葉子に「自分たちの家」に住んでほしかった。
「どうせ人に教えるだけの仕事なんでしょう?」
と、弟は言う。弟は父や母とは違って、姉に芸術家になってほしかった。「きちんと作曲も出来るのが芸術家だ」と、弟はかたくなに信じていた。「人に音楽を教えるだけでは、芸術家にはなれない」――それが弟の考えだった。ただ人に音楽を教えるだけなら、東京にいてもS市にいても変わらない。同じことが出来るはず、というのが彼の言い分だった。
(その通りに違いない)
と、葉子は思う。在学中の期待感は
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