音楽と精霊たち?/朧月夜
 
数年ぶりのことだ。S市の時間は、まるでその時から停止するようだった。もっと言えば、高校の卒業時点から、この街は変わっていなかった。「東京とは何もかもが違う」――あらためてそんなことを思う。

 父の葬儀を済ませると、葉子は一旦は東京に帰った。実家については、空き家の管理業者にその管理を任せるつもりだった。東京での仕事は順調だったし、それを捨てて帰郷する理由はどこにもなかった。

 葉子が実家に帰ることにしたのは、弟がその家に住んでほしいと懇願したからだ。自分たちが子供のころに過ごした家を、そのまま放ってはおけない、と弟は言う。さらに、家を取り壊して土地を売り払うことなどもっての{ルビ外=ほ
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