産み辺のカルマ/平井容子
も、道ゆく車も、人々も、みな一様に染めている。
現実のなかに唐突に差し込まれる夢、呆然となりながら、フラフラとその中を駅まで泳いでいった。
そんな夕陽を無視して足早にゆく人波のなかで、ポツリポツリと、赤い街にカメラを向ける人たちだけが立ち止まっている。
交差点の角の、定食屋さんの前で、バックパッカーらしい外国人の男女が、目を深く閉じてひしと抱き合っていた。
その二人だけが、この赤い世界をただ一身に受け止めて、心の奥にまで夕陽をていねいに広げていた。
もう、なにもいらない、これ以上なにも必要ない、ただこの瞬間燃える世界の中で喜ぶむき出しの心が2つ寄り添って現実の東京の街角で震えていること。
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