見上げてごらん空耳を/ただのみきや
れる
今日初めて実行できた
相手は人ではなかったけれど
*
雨がわたしを海に変える
空白だらけのやせた海だ
雨はわたしの外に降るが
雨音は奥まで浸水して
風に唾する黒い波しぶきとなる
ことばは生きられない
ここから見えるのは表象の焦げ穴の向こう
あらゆるものを侵食する
黒い指紋の群れ
水と油のよう
決して音とは混じらない
すでに死んだものたちの
こころの隙間部分
名付けられず埋めようもなく無視され続けた
表象からこぼれ落ちた塵芥が
器を失くして雨に溶け
時間みたいに近づいてくる
空間いっぱいの黒いフィルムのように
海の黒い三つ編みに
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)