彷徨いの計器/ホロウ・シカエルボク
 
たふたつのマグカップの感情は自室で沈殿している俺自身のそれとどれくらい似ているだろうか、解く必要の無い疑問ほど心に棲みつくものだ、手のひらの切り傷はいつの間にか塞がっていた、人間は自分で生き返るように出来ている、一番大事なことは死を受け入れたままにしないことだ、部屋の隅に積み上げられたコンパクトディスクの山がひとつ崩れる、所持していることすら忘れていたラベル、いくら思い出そうとしても一曲目のイントロ以外何も出てこなかった、幾分丁寧に崩れたものを積み直す、いつかこいつらをまた、トレイに乗せたくなる瞬間が来るだろう、音楽は刻まれる、音楽は忘れられる、旋律があり、歌唱があり、バンドの演奏がある、そうした
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