彷徨いの計器/ホロウ・シカエルボク
仕事を終えて保温以外のすべてを休んでいる、ふたつのマグカップにコーヒーを注ぐ、もう一度注ぎに行く手間が省けるが洗い物は増える、合理的な考えには必ず目的から外れたところに大穴が空いている、いつか一度だけ利用した古いラブホテルの、妙に湿気ていたベッドを思い出す、あそこも今は看板を下ろしてしまった、コーヒーの蒸気にいつも何を期待しているのか、苦笑しながら唇を拭う、窓に積み上げたカラーボックスの隙間から冷徹な朝日がこちらを睨んでいる、反射する光が行き着く先を見たことがない、海の中に落ちていく川のようにそれはわからなくなってしまう、洗って干したペティーナイフの先端から水滴が血のように落ちる、渇いた皿を戸棚に
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