陽の埋葬/田中宏輔
 
葉の後に、しばしの沈黙。愛するとき、いったい、ぼくのなかのなにが、ぼくのなかのどの部分が、愛するのだろうか。ぼくは、マコトの顔といい、身体といい、その表情や、身体の線やその陰影までもつぶさに観察した。細部の観察によって、より実感を感じるというのは、精神がよく働くからであろう。思い出されるまで過去が存在しないように、観察の対象になっていないものは、少なくとも、まだ観察されていないときには、存在していなかったものなのだ。彼のまなざし、かれの唇を細部にわたって、ぼくが見つめているのは、いま彼をより強く、ぼくのなかに存在させるためだった。事物や事象がはっきりとした形をとるのは、こころのなかだけだからだ。川
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