陽の埋葬/田中宏輔
て、藪のなかで鳴いている虫の声が徐々に小さくなり、さらに水の流れる音に集中させると、虫の鳴く声はほとんど聞こえなくなってしまったという。聴覚に意識が影響を与えるということだが、詩人は、この話をぼくに聞かせただけでなかった。このことは、詩人の残したメモのなかにも書かれていた。マコトは工場に勤務しているという。何を作っているのか訊いてみると、精密計測機器だという。ぼくは大学では化学系の学部で、そういった機械のことは、いくらか知っていたが、それ以上のことは訊かなかった。「宏輔さんは、数学の先生だったよね。オレは、数学なんか、ぜんぜんできひんかったし、嫌いな科目やったかな。」ぼくは、マコトの膝の上に手をお
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