美しい灰/ただのみきや
直視できない静物
しっとりした朝だ
一夜で山の色味はずいぶん変わり
黄ばんだ光の川底
紫陽花は
くすんだ化粧の下
よく肥えた死を匂わせる
寡黙な季節の形象を前に
ついことばを漏らしてしまう
節操のない感傷に荷札をつけたところで
どこにも送る当てもなく
傘もささずに
カラスと目くばせ
日差しは睫毛にまつろい
大気に黄金が溶けだしている
ひややかに濃く
肺に血に満ちてゆく
秋と名付けられたひとりのひとのよう
ただ遠くから 唇がふれるほど
夢も現も
アパートの階段の蹴込みに
黒い蝶が止まっていた
ぴたりと翅を閉じ
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