スナップ・ブック/由比良 倖
空の甘い匂いがします。今がいつの季節なのか分からなくて、目眩がします。卵細工の中みたいな明るさの中で、空想を組み立てていくことは楽しいです。遠い知識や、場所や、言葉は、回転する小さな粒のようです。粒は集まり、また小さな遠さを形成します。それは私の中にある、小さな味覚を刺激します。小さな、小さな、死の味がするみたいです。
葉っぱの影が黒板の表面を流れていきます。教壇の上には青い皮表紙の本。夢に見た衛星についての本です。席に座った生徒たちは、みんな人形。真珠貝の静けさ。微動だにしない。天井から生徒たちの頭上すれすれまで、明るい霧が満ちてきます。
Uの店で、ガラスの冠に入った水を買った。手の
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