陽の埋葬/田中宏輔
 
綿布が外れて落ちた。
「よい。」と言い、右隣の男は手をあげて、一人の下級役人があわてて近寄ろうとするのを遮った。男が呪文を唱えると、下に落ちた綿布が床の上をすべり、死刑囚の足元からするすると、まるで服の内側に仕込まれた磁石に引っ張り上げられたかのようにしてよじのぼると、もとにあった場所に、少し前までは眼があったところにくると、ぴたりととまった。嗅覚者の鼻が微妙な違いを捉えた。以前に男が術を使ったときに発散していたにおいとは異なったにおいを。嗅覚者の鼻が、異なるにおいを感じとったのだった。嗅覚者は、隣に坐っている男をよく見た。男の身体全体を、ある一つのにおいが包み込んでいた。顔はおなじだが、前のに
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