陽の埋葬/田中宏輔
いや、なぜ、そもそも、わたしの脳裏に、イエスやラザロのことが思い浮かんだのだろうか。男が洞窟で甦るイメージをあらかじめ持ってしまっていたからであろうか。たぶんそうなのであろう。この男は死んでいたわけではなかったのだ。死に近い状態であったとは聞いていたのだが。しかし、男の魂のにおいは、まったく別人のもののようだった。そんなはずはない。そんなことはあり得ない。もしも、この男が同じ人間であったなら、どのような状態であっても、魂のにおいは同じもののはずだ。仮に精神的な動揺で別人のように様変わりしようとも、魂のにおいには変化はない。あるとしても、ごくわずかなものだ。たしかに、その表情には、おかしなところなど
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