陽の埋葬/田中宏輔
 
石のベンチに腰掛けていた。二つの橋と橋のあいだに点々とたむろする男たち。追いかけていた男が青年の隣に腰掛けた。青年は自分の腕にまとわりついていた蜘蛛の巣をこすり落としていた。それは、青年の死んだ父親の霊だった。青年の父親はさまざまな姿をとって、死んだあとも、青年の身にまとわりつくのであった。この夜は、千切れ雲のような蜘蛛の巣となって空中を漂いながら、青年がくるのを待っていたのであった。追いかけてきた男が立ち去ると、青年は携帯電話をポケットから出して開いた。きょうも詩人からは連絡がなかった。嬌声が上がった。上流のほうで、叫び声とともに、何か大きなものが川に落ちる音がした。もう一度、ひときわ大きなわめ
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