陽の埋葬/田中宏輔
わめき声に混じって嬌声が上がった。青年は立ち上がって、振り返った。だれもいなかった。ふと、ひとがいる気配がしたのであった。青年は上流に向かって歩きはじめた。大人にはなりきっていない子どものようなきゃしゃな体格の男たちが、茂みと茂みのあいだにある細長い道を走り去っていった。川には、黒眼鏡を手にした中年の男がいた。男は、もう一つの手で水辺の雑草をつかんだ。黒眼鏡の中年男は医師だった。走り去った男たちは、医師が持っている薬が目当てだった。青年が渡したハンカチで濡れた手を拭き取った医師は、坐らせられたベンチの下を覗き込んだ。姿勢を戻した医師は、青年の目の前で、手のひらを開いた。手のひらのくぼみには、ビニー
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