寿限無/ただのみきや
開いた本に落っこちた
女が煙を紡いでいる
乾いていく魚の目の中の
月が自傷を繰り返す夜に
雷鳴に臓腑はふるえ
雨はつぎつぎ駆け抜けた
沈黙は縫い付けられたままずぶ濡れで
自分の頬を噛むような
時間は悲しい食べ物の味がした
泣き止まない子どもと
わめき散らす母親が
すべての四辻に待ち伏せている
暗雲から飛来した生き物のように
頬を打つ手は白くやけどを残す
ことばに変わってしまう刹那
シルエットは記号
花の汁に染まりながらそれと気づかず
定まらない曲線を中空に探っている
薄皮一枚 口をふさがれたまま
ひりひり甘い
形象の偶像よ
つながりを断て
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