帰る (散文詩にしてみました 4)/AB(なかほど)
 
聞こ
えず、いつもは待ち望んでいた月が見え始め
るから。まだ僕は、窓の外の音に耳を澄ませ
ている。ようやく、雲がかかり始めた月を見
ながら、君の「よっぽど いいよ」という声
をまた思いだしている。ざわっとひと風ふい
た。もう少しで降ってきそうだから、もう少
し耳を澄ませている。もう降らないのかもし
れない。もう降っているのかもしれない。



戸越銀座商店街は貧乏研究生のオアシスで、
なかなか馴染みにしてもらえなかったが、い
きつけの定食屋もいくつかあり、あの日一服
した後「雨もあがったから国文研に行かない
か」と君がなにげにいいだしたので、行って
はみたものの、
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