白んだ月/ホロウ・シカエルボク
ぬ間に世界は戦いをやめていた
見たこともない高さのビルディングが故郷の空を隠し
スマートに走る車が巨大な交差点をあちこちへと走り去った
俺は茫然と、ただただ茫然と
そんな景色をただ眺めていた
誰かに手を取ってもらわないと歩くことも出来なかった
色々な人間に会って
何度も同じ話をした
病院で健康状態を調べられた
驚くほどに健康だという結果が出た
とりあえずしばらくの間こちらでお休みくださいと
馬鹿でかいホテルの一室を与えられた
そこの浴室の鏡で数年ぶりに自分の顔を見た
こんなに歳を取っていたのか
森の中で過ごしたあの小屋に無性に帰りたかった
こんな世界で今更なに
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