光/由比良 倖
 
私はもう、何も要らない。
ウォークマンに、遠い、遠い空を入れて、
病院の屋上でギターを弾いていたい。
空の白い魚を釣るように、
電線に永遠を見るように、
ただ嘘に塗れたこの世界で、
与えられた指と、歌の感触を、
小さくなって確かめていたい。
私の存在の儚さを、
あまねく光り、ひろがる弱さを、
白いシーツに、取り巻かれながら。

世界は美しい。
瞬きの間も。
言葉とは優しさ。
心とは優しさ。
例え言動が優しくなくても、
生命はそれだけで優しい。

苦い、苦い、スープを飲みました。
私がもし生活にいて、
台所の匂いが鼻に来ると、
胸の中で、本がぱたんと閉じら
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