百鬼百景/ただのみきや
 
想えば
自転を何回か巻き戻すだけ
大昔の死者とだって地続きで暮らしているのだから

日没から逃げるように
朝日と競争するように
あの若き日の情熱は
うつろう景色を愛人として
いつも斜めに世の中を笑い
神話をつくる古代人のように
愚者にふさわしい旅を続けるのだろう
わたしが死んだことなどいつまでも気づかないまま




朝の歩道に大きいなエゾゼミが落ちていた
クロアリよりずっと小さな赤っぽいアリが群がっている
イソップのアリとキリギリスの原型は
アリとセミの寓話だったという
実際にはセミが樹液を吸うために穿った穴から
アリは蜜のおこぼれにあずかる
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