百鬼百景/ただのみきや
かるし
その死体すら食事とするわけだが
おそらくセミの骸には甘い蜜の味が残っていて
アリにはこの上もないごちそうなのだろう
長い暗黒から解き放たれて
太陽と恋と歌 甘い蜜の酒
短くも満ち足りた一生の終わりに
今朝 彼(彼女)はアリの群れをまとっている
おそらくまだ生きてはいるのだろう
あの赤い複眼は夏の太陽の下
もう夢など見ずに途切れゆく現実だけを倍増させている
*
その朝 アサガオの花は美しすぎた
死者の瞳の奥にいつまでも閉じ込められている蝶
暗い寝屋の中 寝苦しく
はだけた女の白い肌から飛び立って
朝露にたわむ蜘蛛の巣にその翅を滲ませる
色濃くもどこか透けたような青い血を吸い上げて
息苦しい夏の胸元のひとしずく
滑稽で奇怪 夢たちの面差しよ
(2023年8月5日)
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