ものうい夏 /ただのみきや
夏の飾花
大荷物を咥えて蟻が後じさる
アスファルトの上をたった一匹で
美しい供物
琥珀色に透けた翅
七宝焼きの細いピン留めのような
ミヤマカワトンボの骸を牽いて
小さすぎて読みとれない
ひとつの記号がいま
抗う秒針のように
空は今にも大粒の雨で地を打ち鳴らし
黒く染め上げようと見張っている
一瞬 一瞬
生と死が互いを打ち消して
連綿といのちを紡ぐ
そんな夏の盃を
飲み干せたためしはなく
さらし続ける生き恥を自ら飾ろうと
ひとみに野の花
酒ですすいで
ことばでただれ
仔猫が鈴を転がすように
苦い空 匿って
見果
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