ものうい夏 /ただのみきや
 
夏の飾花

大荷物を咥えて蟻が後じさる
アスファルトの上をたった一匹で
美しい供物
琥珀色に透けた翅
七宝焼きの細いピン留めのような
ミヤマカワトンボの骸を牽いて
小さすぎて読みとれない
ひとつの記号がいま
抗う秒針のように

空は今にも大粒の雨で地を打ち鳴らし
黒く染め上げようと見張っている

一瞬 一瞬
生と死が互いを打ち消して
連綿といのちを紡ぐ
そんな夏の盃を
飲み干せたためしはなく
さらし続ける生き恥を自ら飾ろうと
ひとみに野の花
酒ですすいで
ことばでただれ




仔猫が鈴を転がすように

苦い空 匿って
見果
[次のページ]
戻る   Point(4)