誤診/やまうちあつし
 
しくしている
けれどもいったん口を開くと
思い出話は止めどない
周知の事実であるが木は自ら動くことができないので
多くは傍観者として眺めた出来事である
思わず笑いを誘う話や涙なしでは聞けない話
木のくせになかなか話が上手い
その中に一つだけ
受け身ではない話があった
あるとき一人の人間が
何の断りもなく
その木の最も丈夫で太い枝に
縄を固く結びつけた
縄の先は人間自身の首へ
全体重を預けるつもりらしい
空はどんより曇り
生暖かい風が吹く
噂では聞いていたが
まさか自分もそのような
奇妙な果実を実らせる日が来ようとは
枝が命の重みを感じ始めた時
発芽以来初め
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