誤診/やまうちあつし
初めて
木は能動的な動きを見せた
縄が結ばれていた頑強な枝はボキリと折れ
人間はあえなく地面に放り出される
そしてしばらく呆然としていたが
情けない声を上げながら
やがてどこかへ去っていく
最も太い枝を自ら損なってしまった木は
一晩中
森羅万象に詰られた
植物の分をわきまえぬ暴挙
他種の運命に介入する傲慢な所業
わんわん責め立てられた末に木は
それならばもう、ということで
人間の病院に身を寄せたというわけなのだ
診察結果は一両日中には出るだろう
昨今の医学の進歩は著しく
どんな種類の命であっても
的確な診断を下すことができる
若くて熱意ある医師は
ベッドに横たわる木の
思い出話を聞きながら思う
(次の回診に遅れてしまう)
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