転生の樹/ただのみきや
 
湖面の月のように揺れるだけ
孵った後の卵の殻や
蝉の抜け殻のよう
楽曲の幽霊が吹き抜けるだけ
ただの壊れた入れ物だった
情熱なんてとっくにすべて
曲に溶け出し流れ出し
なにひとつ残ってはいない
すべて楽器はうつろの器
奏者もうつろ 霊の器

  *

白蝶の群れが舞う
日向の叢
二本の灌木の辺り
近づいて見ると蝶は奥のツツジには寄り付かず
手前の木にばかり止まり
その周りを舞っていた

目を凝らすと
花も葉もないその黒い木は
蝶の蛹とその抜け殻で埋めつくされている
モンシロチョウとは違う
エゾシロチョウの黒く斑な蛹
そしてそんな蛹と抜け殻の間を

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